雄猫の麻呂は我が家に来て早14年、おそらく15歳にはなっていると思う。かなりの年寄りである。
この頃は一日中寝てばかり、外に出たかと思えば、この暑さに耐えられず、すぐに戻ってくる。
そんな麻呂の目の上に栄光の傷痕がある。武闘派だった頃の勲章だ。隣町から遠征してくる宿敵、雄猫のオザワとの格闘は熾烈を極めた。そのオザワを見事打ちのめした証なのだ。
その頃を思うと、目の前の麻呂はなんとも痛ましい。獣医に診てもらう回数も少しづつ増えるばかりだ。
麻呂は腸に問題があるらしい。獣医曰く、ちょっとした不運が重なった結果、骨盤の前で腸が膨張し便が詰まってしまうらしい。
効くと聞けば、専用の餌を与えてみたが拒絶、サプリメントなどいろいろ飲ませようと試みるのだが、麻呂は巧みに排除し決して口にしないのである。
したがって定期的に食欲がなくなり、体力も落ち獣医のお世話になることになる。
とはいえ麻呂の尊厳を思うと、出来るだけ獣医に連れて行きたくない。治療の「掻き出し」の技は感服するものがあるのだが、目を覆いたくなる荒療治だからだ。
診察台に乗せると、先ず爪を切り、首にエリザベスカラーを装着する。その首と足を抑えておくようにと獣医は僕を見て告げるのだった。
まさか我が家の猫の治療とはいえ、治療の補助をすることになるとは想像もしていなかった。
麻呂の目を見ながら抑えてくださいと言われたものの、掻き出しの痛みに麻呂の抵抗は激しい。目を見てやる余裕などない。
獣医の指が麻呂の尻の穴に入ると武闘派だった頃の威嚇を始めた。逃げようと前足を懸命に動かす。こちらも力が入る。
首なのか胴なのか両手で力任せに掴んでいるしかなかった。格闘していると突然エリザベスカラーが外れてしまった。
四日分は溜まっていたそうだ。麻呂はサッパリしたのか穏やかな表情に戻っていた。
その夜、僕は麻呂のヒーリングをすることに決めたのだった。幸い麻呂はヒーリングは拒まなかった。
両手をそっと脇腹に置くと麻呂は僕の目をゆっくりと見てそのまま目を瞑った。
翌朝、妻が麻呂のトイレの砂を混ぜながら三本出てたよ。と嬉しそうに言った。
その次の朝も二本出てたよ。と妻の声。
よかった。これからも毎日麻呂のヒーリングを続けようと誓ったのだった。
2022.8.10